「オートバイで300km/hの世界ってどんなもんなんですか? この前、第三京浜で友達がハヤブサで300km/h以上出したって言ってるんですがホントですかね?」
だいぶ前だが、こんな電話がケンツにあった。いやいや速度無制限のアウトバーンだったらともかく、公道で300km/h出しちゃイケマセンて。逮捕されちゃいますよ;^^A。
まあ、その300km/hの世界だけど、僕はレースだけでなく雑誌やメーカーのテストライダーを務めていたので、その世界のスピードは幾度となく経験している。茨城県にあった谷田部テストコース(1周6kmで4つの45度バンクを持つオーバルコース)で光電管を使用して最高速のテストを何度も行い、実測値で308km/h強の最高速をマークしたこともある。
言ってみればこの速度が公式的には僕の生涯最高速度レコードだろう。公式的、というのはレースでは最高速が公式データとしてリザルトに載るわけではないし、またスピードメーター読みと実測値では当然誤差というものがある。ちなみにそのとき(308km/h)のメーターは確か320km/h以上を示していたから、実測とは5%近い誤差があったことになるのだ。
こんなこともあった。ハヤブサのワールドワイド発表会試乗会がスペインで行われたときのことだ。僕は某二輪雑誌のテストライダーとして参加、まずはカタロニァでサーキットインプレッションを行い、翌日は一般公道のテストがスケジューリングされていた。一般公道とは、それこそ普通の街中からワインディングロード(古いお城がいっぱいあって綺麗な峠道だったなぁ)、一部区間が速度無制限のハイウェイまでと、異国でハヤブサの性能を堪能できるスケジュールだった。
じつは僕らの雑誌にとって、このハイウェイでのハヤブサが誌面の勝負どきだったのだ。
「速度無制限のハイウェイで300km/hをオーバーしているハヤブサのスピードメーター写真を扉ページにしましょうよ。ドカーンとカラー見開き2ページで!」
スペインに行く前のページ制作打ち合わせで、担当の編集者が小鼻をヒクヒクさせてこう言った。しかもそれがサーキットではなく一般のハイウェイであるという証拠のため、メーターの前方にクルマが豆粒くらいの大きさで数台写っている写真がいいと、シチュエーションまで指定してきたのだ。
そう、今回のハイライトがこのハイウェイ300km/hオーバー証拠写真だったのである。
「サーキットで300km/h出すのって当たり前でしょ。一般公道というか、混合交通のハイウェイで300km/hオーバーっていうのがスゴイんですよ!」
そんなもんかぁ? しかもハイウェイ? アブネーよ... 僕は心の中でつぶやいた。が、根性ナシ、チキーンと思われるのがイヤだったのだろう。しかも僕は過去に谷田部テストコースでニンジャをフルチューンしたオートバイで300km/hオーバーメーターの写真を撮ったことがあったので、結果的にOKを出した。
指定された150kmほどのそのハイウェイの中で、速度無制限区間は50kmほどあったと記憶している。街中からワインディング、そしてハイウェイと粛々とテストは進み、いよいよ速度無制限区間に突入した。よし、行くぞ!! 平日の昼間ということもあろう、交通量は極端に少なく天気も上々、ハヤブサをドッカーンとフル加速させた。
その撮影方法だが、スピードメーターに照準を合わせた小さいカメラをガソリンタンクの上に固定し、レリーズシャッターを左グリップまで引っ張ってきて300km/hオーバーのその瞬間を激写する。こんな手法である。これで先の谷田部も成功しているのだ。
ハヤブサはホント、260km/hくらいまでなら瞬時に達してしまう。そこからさらに加速し、スンナリ290km/hまで簡単にメーターを刻む。さすがハヤブサといえど、そこからはジリジリ速度を上げていく、という感じだ。そして当時はスピードリミッター未装着だから実測で300km/hオーバーの世界を堪能させてくれたのだ。
しかし、しかしである。じつを言うと僕はこのときまで公道で300km/hオーバーの経験はなかった。ハイウェイでメーター読み290km/hからジリジリ加速して300km/hオーバーを示した途端、それまで遥か前方の豆粒にしかすぎなかった4輪があっという間にスクリーン越しに大写しの存在となる。ウォー、追突しちまう〜 スロットル全閉... どころかたまには急ブレーキング!!
50kmほどの速度無制限区間で、これを何回繰り返したことか。スロットルは引きちぎれんばかりの全開でメーターを凝視、おお、もう間もなく300km/hオーバー、よしシャッターを... ウォ〜またクルマがぁ!! ちなみに時速300kmということは秒速83m!なワケである。1秒間にはちじゅうさんメーターも進むんだよ〜
速度無制限区間は間もなく終わりとなってしまう。それまでなんとか2回ほどレリーズシャッターを押したが、果たして写っているかどうかは現像してみないとわからない。つまり、300km/hを完全にオーバーしたぞ、おーし、シャッターオン!! というチャンスがほとんどなかったのである。クルマに追突しそうな恐怖に抗いながらヤケクソに押したシャッターが、たった2回なのだ。
しまいにはこのアイデアを出した編集担当者の顔が脳裏に浮かんで来て、「あんの野郎、こんなアブネーことさせやがって!!」と逆恨みする始末... うん、できる、できる! なんてクールに言っていたのはどこのどいつだ、である。
最後のチャンスだ、ウォー、どいてどいてどいてー!! どいてくれぇー!! お行儀悪くパッシングの嵐を遥か遠くのクルマに浴びせながら僕はシャッターを押し続けたのでした。
結果ですか? なんとか1枚だけ写っていました... スペインまで行って約束したことが出来ないなんてオトコがすたる! それだけの思いでなんとか1枚だけ成功させた、と言っても過言でなないかも...
一般公道というか、高速道路での300km/hオーバーっていうのはこんな感じです。正直言ってサーキットやテストコースとは比較にならないくらいアブナイ世界です。もう風圧がどうのこうのというより、周りのすべてのクルマの動向に神経を100%集中させることだけが命綱です。ですから良い子のライダーは絶対やっちゃイケマセン!! だいいち冒頭でも言ったように日本ではカンペキに法令違反ですから...
この前第三京浜でメーター読み320km/h出したぜぃ。いやいや、僕にはもちろん、普通の神経を持つ常識人だったら絶対できません。だいいち第三京浜がそんなに空いているワケないでしょ。夜だった? それはもうロッシにだって絶対に不可能って言い切っちゃいます!!
新型ハヤブサと僕です。これも富士スピードウェイにて。もちろん文中のスペインでの試乗会ではありません、念のため。